かぐわしきは 君の…
   〜香りと温みと、低められた声と。


  “どこが好き?” (番外編)


イエスのブログ更新は毎日の作業となっており、
とはいえ、もう随分と手慣れたそれなので、
連ドラへは、展開をちょろっと掠めるようなコメントを、
土日の早朝や深夜のアニメには、
ちょっとディープに、中の人情報にもたまに触れと。
手は抜いてないが、それでもさほど手古摺りもしないで、
今日もたったかたと軽快なキー操作で、ほんの小半時で片付いて。

 「………。」

愛用のノートPCをパタリと閉じると、窓からの風が涼しいのに気づく。
すぐ先のお隣のキョウチクトウの生け垣が揺れたのか、
ざざぁというさざ波みたいな音もする。
この夏は特に暑いのらしく、
おのれ悪魔め、わたしの忍耐を試す気かと、
最高気温を更新した日など、妙に気合いが入ってしまったイエスだったのへ、
ブッダが見かねて“ファミレスへ行こうか”と誘ってくれたほど。
途轍もない数値を乗り切ってしまえば、
何となく体にも耐性が出来るものなのか、
陽が落ちれば何とかしのげる風も吹くので、
今のところはあの数日ほど打ちのめされもせぬまま、
何とか頑張れている彼らでもあり。

 “…いい時間帯になったなぁ♪”

いっそ暑い間は生活時間自体を昼夜入れ替えちゃえば良いのになんて、
朝と夜とを作った神様の和子様とは思えぬようなことを思いつつ。
うなじがあらわになるよう、器用に髪をまとめていた茨の冠を、
片手でべりりっと外しておれば、

 「……あ。」

静かな宵には想いの外 鳴り響いたか、
そちらは卓袱台に雑誌を開いて眺めていたブッダが、
何気なしだろう、お顔を上げたのと視線が合った。
梅雨も明けて、今週末には大川の河原で花火大会があるという。
勿論のこと、彼らも一緒に観に行こうねと決めており、
雨にならなきゃいいけれどと、
今は熱帯夜とやらより、そっちが懸念されていたりする二人でもあり。
それと、

 「ブッダ、今日も夜更かししているね。」
 「このくらいは夜更かしとは言わないよぉ。」

面白そうな番組もなくて、テレビもつけない静かな部屋。
そんな宵は…いつもだと、明日の支度なぞを早々片付けてしまい、
そのままの流れで布団を敷いてしまい、
時計も見ずに寝入ることさえあるブッダは、相変わらずの朝型で。
観たい番組があったとて、11時を回ると欠伸が出るよな可愛い人なのが、
今宵はどうしたものか、
その時間帯に入っているのに押し入れへと立ち上がりもしない。

 「どうかしたの?」

実は、今宵から始まるシンクロナイズドスイミングの
バルセロナからの中継を待っているとか?と。
何と言っても
“ガンジス河のランブルフィッシュ”という異名を持つ彼なだけに、
無い話じゃあないなと思っておれば、

 「うん…だってサ。」

雑誌の上へ載せていた手をもじもじと組み合わせると、

 「花火ってお祭り以上に夜更けにあるんだろう?」

それでなくとも、今時分はなかなか空も暗くはならぬ。
なので、開始時間もたしか八時過ぎ辺りだったはずであり、

 「それに、観たあとも興奮しちゃって話が沸くに違いないし。」
 「あ…。/////」

絡ませた指をもじもじと、伸ばしたり戻したりする彼なのへ、
ああ…と、イエスにもやっと合点がいった。
布団へ入ればそのまま朝まで目覚めぬほどそれは寝付きの良い彼は、
だがだが、それだと花火を堪能することとそれから、
それへと興奮してしまうだろう わたしの相手がきっちり出来ないかも知れぬと、

 「何なに、少しでも夜型になっとこうってこと?」

ねえ、これって当たり?と、身を乗り出すように卓袱台へにじり寄れば、
ちらと上がった目線がすぐに降り、
口許をうにむに咬みしめるところが、何とも可愛いっ。
寝坊した朝に、ほら早く起きないと布団の中で蒸されてしまいますよと、
優しい声をかけつつ、恐ろしいことを言う“お母さんモード”もいけなかないけど、

 「だって、
  イエスがせっかく楽しみにしているんだし…。///////」

テレビで観るのと違って、
間近で上がる花火は、あのドーンダーンッていう肌身への響きも加わるから、
そりゃあ興奮しちゃうんだよねと。
町内会の掲示板へ張られた告知ポスターを前に、
そんな風に話した折のイエスのはしゃぎようをこそ、
優しく見やってくれてた彼だったのを思い出す。
だから、それへと付き合ってあげなきゃと思いもしたらしく、
そこのところをもじもじと白状しちゃった含羞みようが、
当然のことながら“お母さんモード”じゃあなくっての、
何とも初々しいったらなくて。

 「…そっか。/////」

ごめんね、実は当日まで言うつもりはなかったのかな。
卓袱台の縁をそのまま膝でじりじりと移動して、すぐのお隣まで寄ってけば、
ブッダも心持ちこちらへとその身を向け直してくれて。
雑誌はもう終しまいか、視線もこちらを向いていたのへ気を良くし、

 「ブッダって優しいね。そういうとこ、大好きだよ?」

ふふと眸を細めて笑えば、深瑠璃色のそれはきれいな双眸がゆらりと泳ぐ。
そんな、大仰だなぁと言いつつも、
すべらかな頬にうっすらと朱が昇っているから、
おべっかなんて聞かれないよって突き放されてはないの、ありありと判るし、

 「んん?」

膝へ手をついての、ちょこっと身を乗り出して、
そのお顔を少し下から覗き込めば、

 「〜〜〜。///////」

やあ、照れてるのがまた 何とも可愛いvv
いつぞやは ちゃんと“好きだよ”って言ってくれたのにね。
含羞み屋さんなブッダは、
あれ以降 なかなか具体的にそういうことを言ってはくれない。
でもいいんだ、だって言われなくとも判るから。

 「ブ〜ッダvv」

視線が逸れているのへ、こっち向いてよとのお声掛けをすれば、
耳を真っ赤にしつつも言う通りにしてくれるし。
ちらりとこっち見てからは、
その視線も、今度は逸らされることはなく。
ほわりとした暖かな潤みをまとって差し向けられるのが、
イエスにはドキドキするほど嬉しくてしょうがない。
ややぽってりとした口許は瑞々しく、
よくよく見ないとぬばたま色と間違えそうな 濃瑠璃の瞳は、
吸い込まれそうに深みがあって。
指先で触れなくともしっとり柔らかいって伝わってくる頬とかうなじとか、
いつまでだって見ていたいお顔なの、じいと見やっておれば、

 「………いえす?///////」

急に黙り込んだからか、何か言ってよと身じろぎをする。
なので、もう一度微笑ってから、

 「あのね? ブッダはわたしのどこが好き?」
 「え…?//////」

いささか幼稚なことを訊いたかなとも思ったけれど、
夏の宵だもの、そういうのも有りでしょ?と
開き直っての“さあさあ”と答えを待てば、

 「〜〜〜〜えっと。///////」

イエスの言動が想いも拠らないのは今に始まったことじゃない。
ぎりぎり予想の範疇ながら、それは聖人としてダメダメだろうと思えたことさえ、
堂々とやってのける期待を外さぬ男でもあって。

 “そういう無邪気なところも らしくて好きだけど…。///////”

恐らく、イエスが訊いたのは そういうことじゃなさそうで。
えっとうっとと思案しつつ、すぐ傍らの本人を眺め始めたブッダだったが、

 「えっとぉ…。//////」

上等な玻璃玉の中へ深色の潤みを染ませたような、
それはそれは綺麗な瞳も好きだし、
ややワイルドに不揃いな髪も、実はこそりと気に入りだし。
唇の上に残されてるのと顎へと蓄えているお髭も、
どうしてだろうかむさ苦しいとは思えなくって。
むしろ、意志の冴えを映すかっちりした口許の凛々しさと相俟って、
男の色香を滲ませることがあるから くせ者で。

 「ブッダ?」
 「…っ。///////」

こちらの膝へ手を掛けて、どうしたの?とのぞき込んで来るなんて、
あああ、そんなの反則だよ聞いてないっ。//////
ああでもそうだった、この手も大好きなんだった。
案外と指が細い、でも、しっかり男の人の手で、
手首とか掴まれると、そりゃあドキドキして大変で…。///////

 「ねえ、どうしたの?」

周りが静かだからか少し低めた声は、ちょっぴり掠れて響きも甘い。
わあ、そんなこんな言ってたら、
お顔が随分と…いやあの、近い近いってば、
あのほら、えっとぉ。//////

 「…あっ。///////」
 「ありゃ。」

真っ赤になっての、双眸をギュッとつむってしまったブッダだったのへ。
あ、こりゃしまったかなと、イエスが思ったその途端、
すくめられた肩が小さく跳ねて、
ぶわっとあふれ出したのが、濃藍色のつややかな髪。
どうやら強い動揺に耐えかねて、螺髪が保てなくなってしまったようで。
ありゃまあ、これでは 100%理性的なお答えは望めないかも。
…というか、

 「………いえす〜〜。//////」
 「うん、ごめんね。追い詰めちゃったかな?」

そうまで気が緩んだか、
正座していた足の間へ、すとんとお尻を落としての、
子供座りになっているブッダは、
瑠璃色の双眸をますますと潤ませると、困ったようにイエスを見上げ。
とはいえ、その含羞みを増させた張本人様だけに、

 「〜〜〜〜。///////」

そのシャツの余剰へ片手でちょんと掴まりつつも、
おぶおぶと恥ずかしそうによそを向く小心っぷりが、

 「…うあ、かわいいvv」
 「か、かわいいって何だよ。///////」

一応は言い返したものの、
向かい合ってたイエスのお顔を間近に意識すると、
ますます真っ赤になるばかり。
恥ずかしくてしょうがない時の対処は一つと、
すぐの間際にすとんと落ち着いて座り、
足元の畳まで埋めるすべらかな髪ごと、愛しい人を抱き寄せて。
真っ赤っ赤に熟れたお顔を、こちらの懐ろへ、
埋ずめるようにして伏せさせて差し上げる。
体格にまでの変化はないはずで、
肩の強さもああいつものブッダだと思ったが、
それを覆うやさしいラインとか、

 「い、いえすっ?///////」

ついつい きゅうと抱きすくめてしまうまろやかな柔らかさとかへ、
ついのこととて はうぅと怪しい息が洩れてしまったイエスであり。

 “ああそういえば、”

こういう状況にならないと おいそれとは抱けない肩でもあるんだ、まだ。

 「ごめんね、意地悪しちゃったみたいだね。」
 「う…。///////」

私は、ブッダの生真面目なところも優しいところも、
融通が利かないところも、そうそう

 「びっくりしちゃって
  こんな風に螺髪が解けちゃうかわいいところも大好きだし。」
 「〜〜〜っ。///////」

さすがは欧米人で、褒めるときも臆面もないイエスであり。

 「…こないだと違う。/////」
 「え? あ、ああvv
  意志が強くて、可愛いのに頑固なところも、勿論大好きさvv」
 「〜〜〜〜っ。//////」

うあああ、
あんなあんな、ジョギングに出掛けの自分へちょろっと言っただけのことまで
何で詳細に覚えてるんだと。
ますます真っ赤になったブッダだったが、
自分だって覚えていたのだから世話はない。
どう攻めてもまだまだ勝ち目はないレベルらしいブッダなの、
懐ろに見下ろすイエスの眼差しは、とろけるように優しくて。

 「ねえねえ、私も言ったよ?
  ブッダはどうなの。私のどこが好き?」
 「〜〜〜〜。///////」

さっき意地悪してごめんと言ったくせに、
まだ訊くか…と首をすくめて思うのだけれど。
ああ、こうした時だけじゃあないと、
まだまだ恥ずかしいから、こうまで抱きつけない相手だものなぁと。
真っ赤な頬は恥ずかしいけど、
良い匂いのする頼もしい胸元に頬を寄せる至福には、
まんざらでもないかなぁと、ちょみっとだけ嬉しいというフラグも立ってたりvv

 「……?」

ほわりと香った甘く瑞々しいアプリコットの香りに、
おややぁ?と何か感づくイエスだが、
これ以上の混乱を堪能するは、恋人たちだけの特権と秘密ということで。
愛しい人をきゅうとますます抱きしめたのとは別の手が、
カメラに蓋した、とある夏の更夜の一幕でございましたvv







   〜Fine〜  13.07.24.


  *相変わらず変なイエス様とブッダ様ですいません。
   それと、
   パン屋の弟子のお話がなかなか進まなくってごめんなさい。
   今はこういうモードのほうが入りやすい状態らしいです。
   他のお部屋では書いたこと無いもんな、こういうピュアなの…vv


ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv